一周回ってそのまま。

それは五月某日の交差点、煙草休憩中に出くわした男女の話です。
男女の内訳は、
どことなく消しカスに似ている男性一人と、
これといった特徴のないところが特徴ですといった感じの女性一人の計二人。
以下、その会話です。

消しカス「可愛くなったよね」
特徴「そうかな?」
消しカス「なった、っていうのは失礼か」
特徴「でもアタシ前にアナタに、痩せたらきっと良い彼氏が出来るよって言われてすごいショックだったー!」
消しカス「えっ!?俺そんなこと言った?」
特徴「言ったよー!」
消しカス「言ったかな?ま、確かに俺昔はスタイルの良い子が好きだったからね」
特徴「……」
消しカス「でも俺はある時気が付いたんだよ、女性の美しさはそこにはないな、ってね」
特徴「WAO!良いことに気が付いたね!」
消しカス「そうでしょ!肯定してけ!肯定してけ!」
特徴「ハハハ ハハハ」
消しカス「本当にそう思うんだよ!どんな体型であれ、その人が輝いていれば」
特徴「…」
消しカス「その人の笑顔が輝いていれば……」


…。

……。





えっ、

おい、正気か…?


僕は胸を悪くし、即座にこの場から立ち去ろうとして座っていた縁石から強烈なスピードで腰を上げたせいで立ちくらみをおこし、その煽りを受けてもつれる足をさらに絡め、あわや転倒しそうなどことなくガチャガチャとした足取りで地下鉄へ向かう階段を降りたのでした。

状況の絶対音感とでも言いましょうか。
僕と彼らの音階は決して混ざり合うことはないのかしらん?
と、少しおセンチな気持ちで烏丸線でした。

とは言ってもかくいう私も不肖の身の上、
交差点の二人もさぞかし僕を疎ましく思っていたことでしょう。
ソーリー。


地下鉄は走ります。
始点も終点もなく。
一周回ってそのままです。